製薬企業はその存在感を世界規模で拡大しています。しかし、その拡大に伴い、多様で進化し続ける規制にうまく対応するという課題が生じます。企業にとって特別な障壁となるのは、ファーマコビジランスという規制の厳しい領域であり、地域や国レベルのファーマコビジランス要件を満たすことが必要です[1]。
このような違いに対処するには、医薬品市販承認取得者(MAH)が世界水準および現地水準の専門知識を持つことが必要ですが、多くの企業では現地安全性リソースが不足しています。また、症例報告は中核的ではない活動とみなされることが経験則となっていますが、これによって申請要件を満たさないというリスクが増大し、その結果として患者の安全性や企業の信用さえもが危険にさらされる可能性があります。
このような問題は、EUでの先端医療医薬品(ATMP)の場合と同様に、新規治療法や高リスクの治療法に取り組む際にはさらに深刻化し、比例的に安全性管理コストが上昇し、安全性上の義務が増大し、リスク最小化策(RMM)が追加されます[2],[3]。
また、医薬品市販承認取得者(MAH)は自社製品に関連する現地言語の医学文献を監視し、個別症例安全性報告(ICSR)をEudraVigilanceおよび国内安全性データベースに提出する必要があります[4]。
多様な規制状況への対応
米国には独自の安全性報告要件がありますが、それらは全州で同一です[5]。米国企業が他の市場に参入する際には、安全性報告要件を満たすようプロセスを適応させなければなりません。
この要件がどこよりも複雑なのはEUで、欧州医薬品庁(EMA)による中央販売承認を得た製品でさえ、EUおよび欧州経済領域(EEA)の30カ国で現地安全性要件を遵守しなければなりません。
さまざまな現地要件に加え、EUの17カ国では、企業は販売承認取得後にはその製品がその国で販売されない場合でも現地ファーマコビジランス担当者を置くことが要件とされています[6]。
ほかにも現地ファーマコビジランスに関する義務について多様な要件がある地域もあります。例えば、当社の経験に基づくと、中東およびアフリカ(MEA)地域全体では、サウジアラビアや南アフリカ、エジプトなどの一部の国には厳格で十分に考え抜かれたファーマコビジランス(PV)規制がある一方で、PVに向けた道のりを歩み始めたばかりの国もあります。
現地レベルでPVの課題に対処
この複雑な状況は、現地要件を満たしながら個別症例安全性報告(ICSR)処理の管理を標準化する方法を見出すことの重要性を強調しています。
このような多様な状況に対処する方法のひとつは、国固有の要件に対処し追跡調査活動を実施するため現地の専門知識を得ながら、世界規模でICSR処理を標準プロセスと連携させる中心的なコンセプトを採用することです。これには、経験豊富な国内または地域のPV専門家を得て世界中で活動を監視することが必要となります。
新たな市場に参入する際には、現地要件と潜在的リスクの適切なギャップ分析を実施することが重要です。また、企業は、現地PV担当メンバーが現地要件の遵守に対処するためPVに関する義務について実績を積み、適切なトレーニングを受け、査察に備えていることを確認する必要があります。
これらすべてを行うには、広範なリソースと世界中の活動の適切な監視が必要です。現地PV活動の外部委託により、コストが削減され、企業が現地PVに関する義務を満たしていることが保証され、また企業がその他の中核的活動に注力できるようになります。
著者について:
Alex Brenchat(Ph.D.)は、弊社バイスプレジデントであり、現地関連会社ファーマコビジランスサービス(LPVS)部門の実践領域責任者です。前臨床および臨床研究、科学論文の発表、革新的医薬品のポスターや特許の支援など、製薬業界で20余年の実績があります。
[1]米国、英国、カナダ、インドのファーマコビジランスに関する規制の比較評価および世界的に調和のとれた実践の必要性. Perspect Clin Res. 2018 Oct-Dec. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6176689/
[2]先端医療医薬品に関する2007年11月13日の欧州議会および理事会による規制(EC) No 1394/2007並びに改訂指令2001/83/ECおよび規制(EC)No 726/2004. 欧州連合. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/ALL/?uri=CELEX%3A32007R1394
[3]ATMPに関するリスク管理計画. Biopharma Excellence. https://www.biopharma-excellence.com/2021-6-13-risk-management-plans-for-atmps/
[4]医学文献の監視. EMA. https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/post-authorisation/pharmacovigilance-post-authorisation/medical-literature-monitoring
[5]医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準(GVP)および薬剤疫学評価. FDA. https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/good-pharmacovigilance-practices-and-pharmacoepidemiologic-assessment
[6]国レベルのファーマコビジランス(PhV)窓口担当者の指名に関する加盟国の要件についての情報. EMA. https://www.ema.europa.eu/en/documents/other/information-member-states-requirement-nomination-pharmacovigilance-phv-contact-person-national-level_en.pdf
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